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電王戦第2局 佐藤紳哉六段とやねうら王の観戦記

コンピュータ将棋 電王戦 第3回電王戦

菅井五段と習甦の対戦から一週間息つく暇もなく、2014年3月22日両国国技館で、電王戦第2局佐藤紳哉六段とやねうら王の対戦が始まった。様々なゴタゴタがあったこの第二局なのだが、それはまた今度にしよう。今回は将棋の技術的な背景を解説していく。

先手やねうら王の初手▲1六歩で始まった本局だが、迎えてやねうら王が▲7七角としたところだ(図1)。ここで佐藤六段が方針の岐路を迎えている。プロ同士の一局なら△同角成の一手といっても過言ではない。そうでなければ先手に居飛車にされ、一局ながら端の位をとったことを大きく生かされてしまうだろう。しかし佐藤六段は知っていたのだろう、このまま△4二玉とすれば、やねうら王は居飛車にせずに、ノーマル四間飛車にして自分が居飛車穴熊にできることを。

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第1図 やねうら王が▲7七角とあがった所

 

そして作戦は成功して、やねうら王はノーマル四間飛車に佐藤六段は居飛車穴熊に囲うことができた。図2の局面は多くのプロ・アマが後手を持ちたいのではないだろうか?Ponanzaも後手が200点程良いと言っている。

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第2図 お互い陣形を完成させたが居飛車穴熊の硬さが強烈

 

プロ棋界では、ここ数年、先手のやねうら王のようなノーマル四間飛車はほぼ絶滅した。理由ははっきりしていて、居飛車穴熊の硬さに勝てないからだ。四間飛車はカウンター狙いの戦法で美濃囲いの硬さをたよりに居飛車と戦ってきたのだが、美濃囲いより硬い居飛車穴熊の台頭で終盤競り負けることが多くなり、そしてそのまま絶滅危惧種まで追いやられているのが現状である。

やや変則的に戦いが始まり迎えた局面第3図、先手やねうら王が桂馬を捨てて、穴熊最大の弱点端にイヤミをつけてきた所。ここからPonanzaの読み筋は面白く、△3二金〜△2三銀として自分が作った穴熊を壊して、端をカバーしようという構想を出した。先入観がないコンピュータらしい指し回しに見える。ちなみに会場にいたツツカナも同じ読み筋を示しており、妙なコンセンサスが取れていたことが少し笑えた。

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第3図 Ponanzaとツツカナは後手の穴熊を自分から崩すべきと読む

 

進んで第4図、なんとこの局面で佐藤六段は▲6四歩と垂らされることを見落としたそうだ。ここで歩を垂らすことは何でもない簡単な手であり、思考のエアポケットに入ったのだろうか?もちろんコンピュータにはそういうミスは無いので▲6四歩と垂らした。

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第4図 ここで歩を垂らされたことを見落とした。佐藤六段の精神的なショックは非常に大きい 

 

結論から言えば、▲6四歩と垂らされたことの罪はあまり大きくないのだ。と金はつくられるものとして△4五歩、△5五歩、△1七歩といった感じでどれかイヤミをつけていけば十分勝負になるのだ。しかし続く△8三飛が悪手。▲7三歩成を食らってしまう。第5図の▲7三歩成はコンピュータにとってそれほど難しい手ではないのだが、人間からは相当読みづらい一手である。理由は▲7三歩成の意味づけがとても難しいからだ。ひと目は△同飛と取れば、居飛車の飛車が成り込めるようになるし、なんで歩をわざわざ成り捨てるのかわからない。あえて理由をつけるなら「歩を成り捨てることで居飛車側は絶対に決戦にしなければいけなくなる、そしてはこの時点での決戦は端の傷が消しきれていない居飛車穴熊の方が分が悪い」くらいだろうか。人間は意味付けをすることで、効率的に読みを進めて、コンピュータには不可能な精度の高い読みを実現している。一方で意味付けが難しい本譜のような手が好手となる場合は意外な脆さもでてくる。

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 第5図 人間からは相当読みづらい一手だが、コンピュータ的にはひと目 

 

一直線に進んで第6図、後手佐藤六段はここで△6四歩と渾身の一手、やねうら王は▲同角 、そして△6三香と打って第7図となった。△6三香と打つのは難しい手でもなんでもなく、△6四歩と打ったからには級位者でも十分させる手である。むしろ△6四歩からの流れを考えれば当然である。一方のコンピュータは意味論から読み筋を考えているのではないので、△6三香が痛いことを発見するのにかなり時間がかかった。Ponanzaは10秒以上考えてようやく△6三香が痛いことを理解し始めた。もちろん△6三香は読んではいるのだが、▲3一角成、△同銀、▲2五飛、△2四歩以下、芳しくないことは相当な局面を読まないと判断できないからだ。意味から考えてすぐ指し手を発見できる人間と、意味にとらわれずにすべて読み進めるコンピュータの違いが鮮明に出た形となった。

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第6図 一直線に進んだ局面、先手が膨大な駒得をしており、後手が勝つにはなにか技が必要

 

第7図になれば、人間同士の対局ならば▲同角と取った意味に引きずられて、▲3一角成と、さらに金をとって、逆転負けとなるだろう。しかし相手はコンピュータ、冷静に局面を見直し、▲2五飛と回ればまだ残っているという判断をした。この手は第2回電王戦第3局でツツカナが銀をただ捨てしてしまった後にじっと玉形を整備した局面に通じるものがある。

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第7図 人類渾身の手順にやねうら王、ツツカナ、Ponanzaは惑わされる

 

進んで第8図、評価値はPonanza、ツツカナ共にほぼ互角である。人類渾身の手順が実った局面である。しかし佐藤六段の時間があまりに少なかった、この局面で持ち時間はおよそ30分しかなく、一方のやねうら王は2時間以上あった。このギリギリの終盤をコンピュータと叩き合うにはあまりにも時間が足りなかった。図8の局面、ツツカナの読み筋は△4一角、Ponanzaの読み筋は△2四歩を示しており、どちらも勝つにはまだまだ時間がかかることを予感させる手であった。

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第8図 やねうら王根性の粘りで形勢は混沌とする

 

時間切迫のなか佐藤六段は懸命に戦った。矢尽き刀折れるまで戦い、そして投了した。人間とコンピュータの対比が鮮やかに出た本局は、しかし名局といっても良いと思う。